「転んで手をついたら、その後から肩が上がらなくなった」
転倒後の肩の痛みは、ただの打撲では済まないケースがあります。高齢者や、衝撃の度合いによっては肩の筋肉や、骨の付着部にある腱板(けんばん)に損傷が起きている可能性があり、早期の正確な評価と対処が重要になります。
本記事では、実際に当院で対応した70代男性の転倒後の肩痛症例をもとに、鍼灸での対応と整形外科との連携について解説します。
実際の症例:70代男性、雨の日の転倒後に肩が上がらなくなった
経緯
雨の日に足を滑らせ、地面に手と膝をついて転倒。転倒直後から肩の痛みが出始め、腕が上がらない状態になりました。祝日中のため整形外科の受診ができず、転倒から2日後に当院へ来院されました。
- 主訴:肩の痛み・腕が上がらない・日常生活に支障あり
- 来週にゴルフの予定があり、早期回復を希望
- 整形外科の受診は祝日明けに予定
当院での徒手検査と初期評価
来院時の可動域を確認したところ、以下の所見が得られました。
- 外転運動(腕を真横に上げる):困難
- 前方挙上(腕を前に上げる):可能
- 夜の痛み(夜間痛なし)
この所見と転倒時の状況(手をついた際の衝撃)をもとに、肩峰下インピンジメント症候群と過程して、肩回りの筋緊張を緩める、自己治癒能力を高める目的で鍼灸治療を2回実施しました。*鍼灸師は診断ができないため、ペインフルアークサインによる徒手検査を行います。
肩峰下インピンジメント症候群とは
肩峰下インピンジメント症候群とは、肩を動かすときに肩甲骨の出っ張り(肩峰)と上腕骨の間にある腱板や滑液包が挟み込まれ、痛みや可動域制限が生じる状態です。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 痛みの出やすい動作 | 腕を外側・前に上げるとき(特に60〜120度の範囲) |
| 原因 | 転倒・打撲による急性、または姿勢不良・加齢による慢性 |
| 好発年齢 | 40〜70代以上 |
| 鍼灸での対応 | 炎症の緩和・周囲筋の緊張緩和・血流改善 |
腱板断裂との鑑別について
転倒後の肩痛では、インピンジメント症候群だけでなく腱板断裂(けんばんだんれつ)の可能性も念頭に置く必要があります。本症例でも、祝日明けに整形外科での画像診断(MRI)を強く勧めました。
| 比較項目 | インピンジメント症候群 | 腱板断裂 |
|---|---|---|
| 外転(横上げ) | 痛みがあるが可能なことも | 困難〜不可能(特に完全断裂) |
| 前方挙上 | 比較的可能 | 可能なことも(部分断裂) |
| 夜間痛 | あることが多い | 強いことが多い |
| 確定診断 | MRI・超音波検査 | MRI・超音波検査(必須) |
| 治療方針 | 保存療法が中心 | 程度により手術も検討 |
本症例では「外転困難・前方挙上可能」という所見が、腱板の中でも棘上筋(きょくじょうきん)への損傷を示唆するパターンでした。画像検査なしでは完全な断裂の有無を判断できないため、整形外科の受診を優先しました。
参考:日本整形外科学会|肩のスポーツ障害・インピンジメント症候群
急性期の鍼灸治療で行ったこと
整形外科受診前の急性期(転倒後2〜3日)であったため、以下の方針で施術を行いました。
① 炎症の鎮静
肩峰下の急性炎症を悪化させないよう、強い刺激は避け、遠隔のツボ(条口・曲池など)への施術を中心に行いました。局所はさけて、肩回りの筋肉に低周波療法をおこない、熱感を感じれば、水で濡らして絞ったタオルを幹部へ数回押し当てて冷やしました。
② 周囲筋の緊張緩和
痛みをかばうことで僧帽筋・三角筋・胸鎖乳突筋に二次的な緊張が生じていたため、これらへの軽い鍼とお灸で緊張を緩めました。
③ 可動域の確認
施術前後で可動域を比較し、改善の有無を記録。整形外科に伝える情報として記録を残しました。術後、自力で数センチ動かすことができても正常範囲まで腕は上がらず。
肩が上がらないよう、姿勢指導を行う。
転倒後の肩痛:整形外科と鍼灸の役割分担
転倒後の急性の肩痛では、まず整形外科でのMRI検査で腱板断裂の有無を確認することが最優先です。鍼灸は以下の場面で役立ちます。
- 祝日・休日で整形外科を受診できない期間の応急対応
- 整形外科の診断後、保存療法の補完として
- 手術後のリハビリ期における機能回復サポート
- 痛みをかばうことによる二次的な筋緊張の緩和
よくあるご質問
Q. 転倒後の肩の痛みはすぐ鍼灸を受けていいですか?
骨折・完全腱板断裂が否定できない急性期は、まず整形外科での画像検査を優先することをお勧めします。ただし休日など受診できない場合は、強い刺激を避けた施術で炎症を抑えることが可能です。来院時にその旨をお伝えください。*急性症状において一度の鍼灸治療で痛みが治まることは難しく、治まったとしても再発する可能があります。
Q. 腱板断裂と診断されたら鍼灸はできませんか?
部分断裂や保存療法の方針であれば、鍼灸は有効な補完療法となります。完全断裂で手術が必要な場合も、術後のリハビリ期に鍼灸を活用されるケースがあります。
Q. 70代でも肩の回復は見込めますか?
はい。年齢よりも損傷の程度と適切な対処のスピードが重要です。早期に正確な診断を受け、適切な治療を続けることで、多くの方が日常生活レベルの機能回復を実感されています。
まとめ
転倒後の肩の痛みは「打撲だから大丈夫」と放置せず、腱板損傷の可能性を念頭に置いて早期対応することが重要です。特に70代以上では骨質・腱の脆弱化があるため、MRIによる画像診断を早めに受けることをお勧めします。
鍼灸は整形外科の治療と並行して活用できる手段です。「休日で病院が開いていない」「手術後のリハビリをしたい」「保存療法として続けたい」という方は、ぜひ恵比寿・鍼灸院ハリステーションへご相談ください。





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