【症例報告】心電図は正常、それでも続く動悸と胸の苦しさ──30代男性、家庭環境の変化による動悸に鍼灸で取り組んだ例
患者:Tさん(30代・男性・自由業)
主訴:帰宅直後や一人になったときに突然心臓がドキドキする、夜眠ろうとすると鼓動が速く感じる。
経緯:半年前に家庭環境が変わる出来事があり、精神的ショックから動悸を感じるようになった。内科で症状を訴えるも治療が必要なレベルではないと言われた
Tさんが動悸を感じ始めたのは、昨年の春から夏にかけて仕事が忙しくなった頃からでした。仕事の忙しさに比例して帰宅時間の遅れや、家族との関係に齟齬が出始めたとのこと。結果、家庭環境を維持することができず、半年くらいの期間、悩みに悩んだ末、秋くらいから胸が苦しくなる感覚が出るようになり、不安になって内科を受診されました。人と会っているときは平常。一人になったり考え事をすることで動悸がでることから、ストレスによる影響が大きいのではないかと説明を受けたとのことでした。
内科で「異常なし」と言われても、動悸そのものは変わらず、夜眠ろうとすると自分の鼓動に意識が向いてしまい、寝つきが悪くなるという悩みも抱えていました。ネット検索で自分と同じ症状を改善したとのことでカイロプラクティックを受けるも、すぐに症状が再発。年末ごろ食いしばりのためか寝起きに猛烈にアゴと首が痛くなり、カイロを中断。カイロの影響ではないと思うも、何か他にできることはないかと当院を受診されました。
脈診では左の脈が弱く、舌は腫れぼったく、舌の周りには歯の痕が付き、舌先はやや赤い様子が見られました。東洋医学的には心血の不足と肝気の滞りが重なっている状態と考えました。百会、印堂、内関、神門、膻中、巨闕、関元などで心を落ち着かせ、太衝、合谷で気の滞りを流す施術を行い、合わせて食いしばりによる首肩のこわばりにもアプローチしました。
週一で4ヵ月の施術を重ねる中で、動悸を感じる回数が減り、夜の寝つきも改善していき、半年前よりも落ち着いて過ごせるとのご報告をいただいています。
動悸とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 普段意識しない心臓の拍動を強く、または乱れて感じる状態。脈が速い、強い、飛ぶ、止まるような感覚など、感じ方は人によって異なる。 |
| 主な原因 | 不整脈や心疾患などの心臓由来のもの、貧血や甲状腺機能の異常、そしてストレスや緊張、自律神経のバランスの乱れによるものなど幅が広い。 |
| 検査で異常が見つからないケース | 心電図やホルター心電図で重大な異常が見つからず、軽度の期外収縮のみ、または所見そのものがない場合も多い。この場合、ストレスや自律神経の影響による「心臓神経症」的な状態が背景にあることがある。 |
| 悪化しやすい場面 | 緊張する場面(会議、商談、人前での発言)、就寝前に脈を意識したとき、カフェインの摂取後など。 |
| 一般的な治療 | 心臓由来の異常がある場合は循環器内科で薬物治療や経過観察。ストレス性、自律神経性が疑われる場合は、生活指導や、必要に応じて心療内科での対応が検討される。 |
東洋医学から見た動悸
東洋医学では、動悸は「心(しん)」の働きと深く関わるとされています。心は血を巡らせ、精神活動の土台になる臓と考えられており、心を養う血が不足する「心血虚(しんけっきょ)」になると、脈の力が弱くなり、動悸や不安感、不眠が出やすくなります。
また、Tさんのように感情が乱高下する場面が続くと、「肝(かん)」の気の流れが滞る「肝気郁結(かんきうっけつ)」が起こりやすくなります。肝の気が滞ると、その影響が心に及び、動悸や胸の苦しさ、息苦しさとして現れることがあります。検査で異常が出ないタイプの動悸の多くは、この心と肝のバランスの乱れが背景にあると考えています。
当院の動悸への治療アプローチ
① 内関、神門で心を落ち着かせる
前腕にある内関、手首にある神門は、心の働きを安定させ、動悸や不安感を和らげる代表的なツボです。脈の状態を見ながら刺激を加えます。鍼のついたシール(パイオネックス)を使用するケースが多いです。
② 膻中で胸の詰まりを緩める
胸の中央にある膻中は、胸の苦しさや息苦しさの緩和に使われるツボです。緊張で固くなりやすい胸の状態を緩めることを目指します。女性にはセンシティブな箇所なのでホットパックで温めます。その代わり巨闕、関元に鍼を行います。背中の緊張も胸の詰まりに影響するのでしっかりアプローチします。
③ 太衝、合谷で気の滞りを流す
足の太衝、手の合谷を使い、肝の気の滞りを流すことで、ストレスによる緊張状態の緩和を図ります。頭に熱が溜まると、足先が冷えたりもするので、ホットタオルなどで温める力技もありました。
④ 首肩のこわばりへのケア
食いしばりや緊張状態が続くと、首肩の筋肉がこわばり、それ自体が呼吸の浅さや動悸の感じやすさにつながることがあります。全身の緊張を緩めることも、動悸の改善には欠かせません。椅子に深く座って深呼吸がおすすめです。
循環器内科、心療内科との連携について
動悸を感じたら、まずは循環器内科を受診し、不整脈や心疾患など、心臓そのものに原因がないかを確認することが大切です。検査で重大な異常がなく、ストレスや自律神経の影響が考えられる場合は、鍼灸でのアプローチが選択肢になります。不安や緊張が強く、生活に支障が出ている場合は、心療内科での対応が必要になることもあります。
次のような場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 動悸とともに胸の激しい痛みがある場合
- 意識が遠のく、失神した場合
- 息切れや呼吸困難が強い場合
- 動悸が長時間続き、治まらない場合
よくあるご質問
Q. 心電図で異常がないと言われましたが、それでも動悸が続くのはおかしいですか?
A. おかしくありません。検査では心臓そのものの異常を確認していますが、ストレスや自律神経の影響による動悸は、検査では捉えにくいことがあります。当院ではそうしたケースのご相談を多く承っています。
Q. 動悸を感じると不安になってしまいます。鍼灸でその不安感も和らぎますか?
A. 心を落ち着かせるツボを使った施術は、動悸そのものだけでなく、それに伴う不安感の軽減にもつながることが多いです。
Q. どのくらいの頻度で通えばよいですか?
A. 症状が強い時期は週1回程度から始め、変化を見ながら間隔を調整していくことをお勧めします。
Q. カフェインを控えた方がよいですか?
A. カフェインは動悸を誘発しやすいとされているため、症状が強い時期は摂取量を見直すことをお勧めします。
まとめ:動悸と鍼灸
- 動悸は心臓由来のものだけでなく、ストレスや自律神経の乱れによっても起こります。
- 検査で異常が見つからない動悸の多くは、東洋医学で言う心血虚や肝気郁結が背景にあると考えられます。
- 鍼灸は心を落ち着かせるツボと、気の滞りを流すツボを組み合わせてアプローチします。
- まずは循環器内科で心臓そのものの異常がないかを確認した上で、鍼灸を取り入れることをお勧めします。
「検査では異常がないのに動悸が続く」とお悩みの方は、一度ご相談ください。
恵比寿鍼灸院ハリステーションでは、動悸の鍼灸相談を承っています。





コメント