症例

顔面神経麻痺(ベル麻痺、ハント症候群)に鍼灸|顔が動かない・口元の歪みへの東洋医学的アプローチ【鍼灸師監修】

「朝、鏡を見たら顔の左半分が動いていなかった。目も閉じにくくて、びっくりして耳鼻科に行きました」

顔面神経麻痺は突然発症することが多く、気づいたときにはすでに顔の半分が動かない、目が閉じない、口から飲み物がこぼれるといった状態になります。

原因の多くは顔面神経への炎症で、発症72時間以内の医療機関での治療が後遺症の有無を大きく左右します

本記事では、前の職場ですが私が数人対応した症例をもとに、顔面神経麻痺に対する鍼灸治療のアプローチについて解説します。

実際の症例:20代女性、起床時に顔面麻痺を自覚

経緯

アパレルの接客業。数日前から耳の周囲に違和感、痛みがあったが、疲れと思い様子を見ていた。ある朝、洗顔時に瞬きができない、口から水がこぼれることで、顔の違和感に気づいた。同日、耳鼻咽喉科を受診してベル麻痺と診断され、ステロイドと抗ウイルス薬を処方。薬の服用開始から10日後、「薬と並行してできることはないか」と当院へ来院。

  • 主訴:左顔面の動きが弱い、額にしわが寄らない、目が完全に閉じない、口角の歪み
  • 耳鼻咽喉科にてベル麻痺と診断済み(柳原法スコア)
  • ステロイド+抗ウイルス薬を服用中(発症3日後から開始)
  • 接客業のため、早期の表情回復を希望(日常生活は可能、マスク着用で来院)

来院時の状態と初期評価

来院時に以下の所見を確認しました。

  • 額のしわが寄らない(前頭筋の麻痺)
  • 左目が完全に閉じない(眼輪筋の麻痺)→ 就寝時に眼帯使用中
  • 左口角が下がっている(口輪筋、頬筋の麻痺)
  • 耳周囲の痛みが残存
  • 睡眠の質が低下(入眠困難、不安感)

医療機関での診断、投薬治療が先行していたため、鍼灸は補完的に関わる方針で施術を開始しました。

顔面神経麻痺(ベル麻痺、ハント症候群)とは

顔面神経麻痺は、顔の表情を作る「顔面神経(第7脳神経)」が何らかの原因でダメージを受け、顔の片側が動かしにくくなる状態です。原因の約70%は「ベル麻痺」と呼ばれる原因不明のもので、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)の再活性化が関与していると考えられています。

項目 内容
主な症状 顔の半側の動きが弱い・目が閉じない・口角が歪む・額にしわが寄らない・味覚障害・耳鳴り
好発年齢 年齢を問わず発症するが、20〜40代に多い
発症様式 突然(数時間〜1日以内に症状が完成することが多い)
主な原因 ベル麻痺(最多)、ハント症候群(帯状疱疹ウイルス)、中耳炎、腫瘍など
標準治療 ステロイド+抗ウイルス薬(発症72時間以内が最も有効)
鍼灸での対応 神経回復の促進・顔面筋の機能回復・後遺症予防

参考:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会|顔面神経麻痺について

ベル麻痺とハント症候群の鑑別

顔面神経麻痺のなかでも、特に注意が必要なのが「ハント症候群」です。帯状疱疹ウイルス(VZV)が原因で、耳介や外耳道に水疱が現れることが特徴です。ベル麻痺と比べて回復が遅れやすいため、早期の鑑別が重要です。

比較項目 ベル麻痺 ハント症候群
原因 単純ヘルペスウイルス(HSV) 帯状疱疹ウイルス(VZV)
耳・皮膚の水疱 なし あり(耳介・外耳道・口腔内)
耳の痛み 比較的少ない 強い耳痛を伴うことが多い
難聴・耳鳴り・めまい まれ 合併することがある
回復率 約70%が完全回復 ベル麻痺より回復が遅れやすい
治療 ステロイド+抗ウイルス薬 ステロイド+抗ウイルス薬(必須)

本症例では耳の水疱が確認されなかったため、ベル麻痺として対応しました。ただし耳周囲の痛みが残存していたため、ハント症候群への移行の可能性も念頭に置きながら施術を進めました。

発症時期別の鍼灸治療アプローチ

顔面神経麻痺への鍼灸の関わり方は、発症からの時期によって異なります。

急性期(発症から約2週間)

神経への炎症が続いている時期のため、顔面への過剰な刺激は逆効果になることがあります。当院では以下の方針で施術を行いました。

① 顔面への直接刺鍼は最小限に
急性炎症が強い時期は局所への強い刺激を避け、顔面神経への鍼は2~3か所(翳風、けんりょう、太陽穴など)への置鍼、赤外線で温めるなど最低限の施術にとどめます。

② 首・後頭部・肩の緊張緩和
痛みや不安による筋緊張が生じているため、うなじ髪の毛の生え際にある、天柱、風池、肩井などへのアプローチを行います。

③ 自律神経・免疫力を整えるツボへのアプローチ
合谷、足三里、曲池など、全身の気血の流れを整えるツボへの施術で、体の自然治癒力を高めることを目的としました。背部兪穴(肺兪・心兪など)へのお灸も併用しました。

回復期(発症から2〜3週間以降)

神経の炎症が落ち着き、表情の動きが少しずつ戻り始めたら、手数を増やし顔面への積極的なアプローチを加えます。

① 顔面筋への施術
動きの回復が遅れている部位(前頭筋、眼輪筋、口輪筋、頬筋)への鍼とお灸で、筋の機能回復と血流改善を促します。

② 後遺症・病的共同運動の予防
回復が不完全なまま進むと「目を閉じると口角が動く」といった病的共同運動(連合運動)が残ることがあります。過剰な神経誘導を防ぐため、刺激量を慎重に調整しながら施術を行いました。

③ 顔面部へのお灸
20代患者さんには赤外線で温熱刺激を。帯状疱疹などウイルス性の麻痺には糸状の細いお灸を面で多用し、麻痺箇所の血流改善を促します。

耳鼻咽喉科、神経内科と鍼灸の役割分担

顔面神経麻痺では、医療機関との連携が特に重要です。発症後、薬を服用ひと月後には顔の動きが良くなる報告がなされています。

  • 発症直後(72時間以内):まず耳鼻咽喉科または神経内科を受診。医師の指導の元ステロイド、抗ウイルス薬の投与を最優先にしてください
  • 薬の投与開始後(発症10日〜):鍼灸を併用することで回復をサポート
  • 回復期・後遺症が残っている場合:引きつり・病的共同運動・非対称への鍼灸ケアを継続

鍼灸の存在を知らず、5年以上麻痺のまま生活を続けていた患者さんも中には居ました。投薬最優先ですが、鍼灸も早期回復のお役に立てますので、認知が広がれば良いなと思っています。

鍼灸単独で顔面神経麻痺を「治す」わけではありませんが、薬物療法と組み合わせることで回復の速度を高めることが期待できます。

よくあるご質問

Q. 顔面神経麻痺に気づいたらすぐ鍼灸を受けていいですか?
発症直後は、まず耳鼻咽喉科または神経内科を受診してください。ステロイドと抗ウイルス薬の早期投与が予後を大きく左右します。鍼灸は医療機関での治療が始まってから、並行して行うのが理想的です。

Q. 発症からどのくらいで来院するのが効果的ですか?
薬の投与が始まり急性炎症が落ち着いてくる発症10日〜2週間前後からの来院が多いですが、回復期、後遺症期でも対応しています。後遺症に近くお顔の動きが良くなるまで半年、一年かかる場合もありますが、「もう遅いかも」と思わずにご相談ください。

Q. 後遺症(顔の引きつり、連合運動)が残っていますが改善できますか?
後遺症期でも神経の鞘が残っていれば対応可能です。引きつり、病的共同運動、顔の非対称性に対して、顔面神経の賦活化、表情筋へのアプローチと顔面体操の指導を組み合わせて施術します。

まとめ

顔面神経麻痺は、発症直後の医療機関での適切な治療が最優先です。しかし薬だけでは回復が不十分なケースも少なくなく、鍼灸による補完療法が後遺症予防と回復促進に力を発揮します。

「薬を飲んでいるが回復が遅い」「後遺症の引きつりが気になる」「顔の歪みが残っている」という方は、ぜひ恵比寿鍼灸院ハリステーションへご相談ください。

廣木 孝志

廣木 孝志

2022年11月、恵比寿で個室鍼灸院を開業/痛みの緩和、全身調整が得意/セルフケア提案とコンディショニングを大切にしています。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


料金・メニュー
★★★★★
84件のクチコミ
Googleで確認する →
初回 8,100円〜 医療費控除の対象
📅 WEB予約 LINE予約