患者プロフィール
40代女性。医療の仕事をされている方です。今回が初めての鍼灸で、「人生で一度は受けてみたかった」とお越しくださいました。
主訴と経過
2年ほど前から、左の肩が上がりにくくなっていました。特徴的だったのは、痛みがないことです。
痛くないので、日常生活で困る場面はそれほど多くない。ただ、腕を上げていくと、耳の高さまで届かないところで止まってしまう。以前、他院の治療家にアドバイスをもらった際にだいぶ上がるようにはなったものの、そこから先が変わらないまま時間が経っていました。
以前は運動の習慣がありましたが、ここ数年は体を動かす機会が減る時期が続いていたそうです。
「スッキリしたい」——それが、この日のご希望でした。
東洋医学的な見立て
痛みがないぶん、動かさないまま2年という時間が経っていました。動かさない関節は、少しずつ動く範囲を狭めていきます。
そこで、いきなり肩を動かしにいくのではなく、まず全身の緊張をゆるめて「肩が動ける下地」をつくり、そのうえで肩そのものに手を入れる。この順番であれば、その場だけの変化で終わらないと考えました。
施術内容
仰向けから始めました。胸鎖乳突筋、肘まわり、お腹、すねの筋肉をゆるめました。
- 頭のてっぺんの百会(ひゃくえ)、みぞおちとおへその中間にある中脘(ちゅうかん)、膝の外側の下にある足三里(あしさんり)に鍼。
- 左肩に整体。体位を変えるタイミングで確認したところ、この時点ですでに左腕が上がるようになっていました。
- うつ伏せになっていただき、整体と置鍼。首と肩、腰からお尻、ふくらはぎまで12本。初めての鍼灸なので刺激は優しめにしましたが、「問題ない」とのことでした。
施術後、左肩は問題なく上がるようになりました。ご本人の言葉は「不思議と軽くなった」。そう言って笑っていらしたのが印象的でした。
※効果や経過には個人差があります。
肩ではなく、お腹から入った理由
今回、最初に鍼をしたのは肩ではありません。百会と、お腹の中脘、足の足三里です。
東洋医学では、筋肉をゆるめるにも「材料」がいると考えます。その材料をつくるのが、胃腸のはたらきです。ここが十分に働いていないと、その場でゆるめてもすぐに戻ってしまうことがあります。当院では、肩でも腰でも、初回はお腹に鍼をします。
肩だけを一生懸命ほぐしても変わらなかった、という方は、案外、胃腸の不調が理由かもしれません。
同じ悩みのある方へ
痛みがないと、つい後回しになります。「上がらないけど、困っていないから」と、そのまま何年も経ってしまう方は少なくありません。
ただ、動かさない時間が長くなるほど、動く範囲は戻りにくくなっていくと考えています。痛くないうちのほうが、体は応えやすいというのが実感です。
腕を上げる、回す。一日のどこかで、肩を大きく動かす時間を数十秒つくってみてください。
なお、強い痛みや夜間の痛みをともなう場合、けがのあとに急に上がらなくなった場合は、まず整形外科の受診をおすすめします。
繰り返さないために
今回いちばんお伝えしたかったのは、「肩の問題が、肩だけで起きているとは限らない」ということです。
胃腸が疲れていると、体は筋肉をゆるめるところまで手が回りません。肩こりでも腰痛でも、繰り返す方の背景に胃腸の疲れが隠れていることは、当院ではよく経験します。今回、お腹のツボから入って肩が動いたのは、その一例だと考えています。
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