施術を受けた直後は楽になるのに、しばらくすると同じところが戻ってくる。「またか」と思いながら、また通う——当院に来られる方から、いちばん多く聞くお話です。
揉み方が足りないわけでも、通う回数が少ないわけでもありません。体を作り直すための材料が、足りていないことがあります。その材料を作っているのが、胃腸です。
なぜ、同じところが繰り返し痛むのか
筋肉も、血液も、痛みを回復させる力も、すべて食べたものから作られます。栄養の吸収の9割は小腸で行われ、大腸では水分が吸収されます。
つまり胃腸のはたらきが落ちていると、施術で筋肉をゆるめても、そこを立て直す材料が届きません。ゆるんだけれど、また硬くなる。この繰り返しの背景に、胃腸の疲れが隠れていることがあります。
「腰が痛いのに、なぜお腹の話をされるのか」と思われるかもしれません。順番が逆なのです。痛む場所は結果で、材料を作る場所が土台です。
東洋医学が胃腸を「土台」とみる理由
東洋医学では、胃腸のはたらきを「脾胃(ひい)」と呼び、気血を生み出す源と考えます。「後天の本(こうてんのほん)」——生まれたあとの体を支える根本、という言い方をします。
脾胃が弱ると、体をめぐる気血が十分に作られません。すると筋肉は養われにくくなり、冷えやすくなり、疲れが抜けにくくなる。肩こりや腰痛といった体の表面の症状も、この土台の状態に左右されます。
だから東洋医学では、痛みを診るときにも必ず胃腸の状態をみます。当院が「繰り返す不調は胃腸から」とお伝えしているのは、この考え方に基づいています。
こんなサインはありませんか
ご自身の胃腸の状態を知る手がかりです。当てはまるものが多い方は、症状の背景に胃腸の疲れがあるかもしれません。
- 食後に強い眠気がくる
- お腹が張る、ガスがたまりやすい
- 軟便と便秘を繰り返す
- 手足が冷える
- 寝ても疲れが抜けない
- 舌に白い苔(こけ)がつく
- 甘いものや脂っこいものが急に欲しくなる
- 冷たい飲み物をよく飲む
私自身が、胃腸の弱い半生でした
少し個人的な話をお許しください。
私は生後40日ごろ、百日咳の悪化で一時的に心停止し、医師から生存が難しいと言われた子どもでした。蘇生したあとも薬の副作用で軟便が続き、学生時代を支えてくれたのは、祖母が毎日作ってくれた白湯でした。成人してからもストレスで下痢をするのは当たり前で、それが自分の体質だと思っていました。
転機は、はじめて治療を受けたときです。恩師にお灸を据えていただいたときの感覚は、今でも忘れられません。じわりと広がる温熱が、ずっと冷えていた胃腸の奥まで届いていく。お灸には、鍼とはまた違う「芯から温めて、内臓のはたらきを整える」力があります。
長年の胃腸の不調が、お灸を通じて変わっていった。その経験が、私が鍼灸師を目指す確信になりました。祖母の白湯も、恩師のお灸も、していたことは同じです。内側から温めること。
※これは私自身の経験です。同じ結果をお約束するものではありません。
当院のアプローチ
肩こりや腰痛でご来院された方にも、必要に応じてお腹や足のツボを使います。中脘(ちゅうかん)や天枢(てんすう)といったお腹のツボ、足三里(あしさんり)や三陰交(さんいんこう)といった足のツボです。
痛む場所をゆるめるだけでなく、体が自分で立て直していく方向を後押しすることを目的としています。「施術のあと、お腹が動く音がした」「その日はよく眠れた」と言われることがあるのは、体の内側が動きはじめるからです。
当院がめざしているのは、痛みをその場でゼロにすることではなく、戻りにくい状態をつくることです。そのためには、施術と、ご自身の毎日の過ごし方の両方が必要になります。
自分でできること
東洋医学では、脾胃は「冷え」と「食べすぎ」を嫌うと考えます。難しいことは要りません。
- 冷たい飲み物を減らし、常温か温かいものに:胃腸は温かいほうがよく動きます
- よく噛む:消化の最初の仕事は口の中です。胃腸の負担が減ります
- 足三里にお灸:膝の外側の少し下にある、胃腸の代表的なツボです。お灸のやり方はこちらで詳しく
- 腹八分目:疲れているときほど、量を控えると回復に力を回せます
- 発酵食品を少しずつ:納豆、味噌汁、ぬか漬けなど。善玉菌は摂り続けないと数日で減っていきます
お腹が緩いとき、おへそより「みぞおち」と「あばら」
お腹を下しているとき、多くの方はおへその周りをさすります。ただ私自身は、みぞおち(鳩尾)に手を当てて温めるほうが、そしてあばらの下のふち(章門のあたり)を軽くさするほうが、楽に感じます。
章門は東洋医学で「脾の募穴(ぼけつ)」といい、消化の働きがあらわれやすい場所とされています。ただ私自身の実感としては、理屈より「腸そのものを触るより、その手前がゆるむほうが先」という感覚に近いです。
やり方は簡単です。手のひらを重ねて置き、手の温かさが伝わるまで1〜2分。さするときは、皮膚が少し動く程度の軽さで十分です。強く押したり、痛いのを我慢して揉んだりする必要はありません。
ただし、強い腹痛・発熱・血便・繰り返す嘔吐があるときは、手を当てずに医療機関へ。記事の後半「こんな場合は医療機関へ」もあわせてご覧ください。
祖母の白湯のように、毎日できる小さなことのほうが、体は応えてくれます。
実際の症例で見る「繰り返さないためのケア」
「なぜ繰り返すのか」を体の使い方や体質までさかのぼって見た症例を、実際の経過とともにご紹介しています。
- 週末バスケを3年続ける30代男性の「維持するケア」…痛くなってから治すのではなく、繰り返さない状態を保つ通い方の例です。
- 久しぶりのヒールで腰が痛くなった40代女性…筋力ではなく「一方向に使い続ける癖」が原因だったケースです。
- ゴルフ後の股関節の痛み(鍼灸師本人の体験)…私自身が自分の体で「繰り返す原因」と向き合った記録です。
- 夏に胃がこみ上げる、食欲が出ない…汗とエアコンで冷えた胃腸が、夏のたびに不調として出ていた例です。
- 20年来の片頭痛と首肩の痛み(40代男性会社員)…痛む場所ではなく、胃腸の冷えと睡眠という土台から見直した経過です。
- 腕が真上に上がらない60代女性…長年の体の使い方でできた左右差が、動かしにくさとして表れたケースです。
症状は違っても、共通しているのは「その場の痛みを取って終わりにしない」という視点です。
こんな場合は医療機関へ
体重が急に減る、便に血が混じる、強い腹痛が続く、発熱を伴う——こうした場合は、消化器内科などの医療機関でご相談ください。鍼灸は医療の代わりではなく、検査で異常が見つからない不調や、体質的な弱さに向いています。
よくあるご質問
Q. 腰痛で行ったのに、お腹に鍼をするのはなぜですか?
痛む場所をゆるめても、それを立て直す材料が届かなければ戻りやすいためです。お腹や足のツボを使うことで、体が回復に向かう土台を整えることを目的としています。もちろん、ご希望があれば痛む場所の施術を中心にすることもできます。
Q. どのくらいで変化を感じますか?
体質にかかわる部分なので、痛みが楽になるより時間がかかります。目安として、1か月ほど続けたあたりで「戻る間隔が伸びた」と感じる方が多いです。
Q. お灸は自分でやっても大丈夫ですか?
はい。市販の台座灸なら安全に扱えます。火を使わないタイプもあるので、オフィスでも使えます。
まとめ
同じところが繰り返し痛むとき、原因はその場所だけにあるとは限りません。体を作り直す材料を生み出す胃腸——東洋医学でいう脾胃——が疲れていると、施術の効果も長持ちしにくくなります。
胃腸を整えることは、遠回りに見えて、実は近道です。私自身が、そのことを自分の体で知りました。
恵比寿で鍼灸院をお探しの方へ
当院は恵比寿駅から徒歩4分の個室鍼灸院です。肩こりや腰痛でお越しになった方にも、必要に応じて胃腸の状態からみていきます。
「病院に行くほどではないけれど、また同じところが戻ってくる」——そのくらいの状態で、お越しいただいて大丈夫です。予約と予約の間に余白をとっているので、急かされることはありません。
▶ ご予約・空き状況をみる
▶ LINEで相談する(はじめての方のご質問もどうぞ)
初回8,100円〜(医療費控除の対象)/恵比寿駅 徒歩4分・個室
あわせて読みたい




コメント