ご来院時の状態
症状:右腕が真上まで上がらない(半年以上)
- 60代女性・鍵盤楽器の講師
- 趣味で武道の稽古を続けている
- 半年以上前、重いものを持った瞬間の違和感から、右腕を真上に上げようとすると「痛いのとは違う、突っ張る感じ」とのこと。
- あわせて右の足裏に、押すと痛む場所がある
問診と検査でみえたこと
腕そのものよりも、体の使い方の左右差が気になりました。
- 演奏では座った姿勢が長く、重心が左に寄りやすい
- エレクトーン時、右足で踏み込む動作が繰り返される
- 右膝の内側に力が入りやすい癖がみられた
- 右の足裏(土踏まずから踵にかけて)に圧痛
肩、腕の症状ですが、右足で支える/左に座るという長年の左右差が出ていると考え、足元からの調整を組み立てました。この見立てはご本人にも共有しています。
1回目の施術
- うつ伏せで、頸部および胸椎の中部(5〜7番あたり)に置鍼
- 右の足裏にお灸
- 横向きで右肩まわりにお灸
- 大、小円筋、前鋸筋をほぐす
- 右下肢(懸鐘・飛揚・三陰交)に置鍼
施術後、肩の動き、腕のツッパリ感は良好でした。
2回目の施術(3週間後)
腕を後ろに回す動作(結帯動作)での痛みと、右の踵に圧痛が残っていました。
- 鍼の響きに敏感なため、鍼の太さを一段細いものへ変更
- 首肩・脇・肩甲骨の内側にパルス
- 横向きで三角筋、上腕筋に抵抗をかけた運動
- 仰向けで土踏まずへのアプローチ
- 股関節まわり、帯脈に単鍼
- 目元の美容鍼、眼精疲労に対して太陽・角孫にパルス、攅竹に置鍼
前回の施術後、脚の親指に重心を置くと良いアドバイスを実施。立ったまま靴下がはけるようになった、立ち方が安定したとのこと。それまで右足での片足立ちが難しかった様子。
今回の施術後は、肩の痛みはご本人の評価で10から2へ。かかと付近の痛みもほぼ軽減しました。もう一つの変化として、次回のご予約の際にと手帳を開いた瞬間「手帳の)文字がはっきり見えるようになった」とその場で言われたのが嬉しかったです。
3回目の施術
前回までで、腕を上げること自体はできるようになっていました。残っていたのは、稽古のなかの特定の動きです。
この方は週に一度、合気道の教室に通われています。稽古では木刀の素振りをするのですが、右手に構えた木刀を右から左へ振り下ろすとき、そこで体が止まってしまう。「上げるのはできるようになったけれど、振り下ろすと途中で引っかかる」とのことでした。
そこでこの日は、肩ではなく体の右側面と股関節まわりを中心に組み立てました。
- 右の腹斜筋(帯脈)に鍼
- 右の大腿筋膜張筋
- 右の居髎(きょりょう)
帯脈も居髎も、体の横側を上下に走る同じライン(胆経)の上にあるツボです。
施術後、腰のひねりが出るようになり、右から左への素振りがスムーズにできるようになりました。
木刀を振り下ろす動作は、腕で振っているように見えて、実際は腰から先に回っています。腕を上げる動作も同じで、肩だけで完結してはいません。この方の場合、1回目・2回目で肩と足元が整ったあとに残っていたのは、右の体側が縮んだまま、腰が右へねじれにくいという状態でした。
「腕が上がらない」という訴えで来られた方の、最後のカギが肩でも腕でもなく腰の回旋だった。動きの起点は、ご本人が引っかかりを感じている場所から離れたところにあることがあります。
繰り返さないための視点
長年続けてきた動作や姿勢でできた左右差は、一度整っても、同じ生活を続けていればまた戻ります。この方の場合は、座って演奏する時間の長さと、右足で踏み込む動作がその土台にあります。
体の左右差は、東洋医学では気血の巡りの偏りとしてもみます。巡りを支えているのは日々の食事と休養で、胃腸の状態はそこに直結します。施術で動くようになった体を保ちやすくするために、体質の面からも整えていく視点をお伝えしています。
→ 繰り返す肩こり・腰痛と胃腸の関係|東洋医学の「脾胃」から整える
同じお悩みのある方へ
腕が上がらないとき、多くの方は肩そのものを揉んだり伸ばしたりします。ですが今回のように、支える側の足元や、日常で繰り返している動作の癖が関係している場合があります。
ご自宅でできることとしては、片足立ちを左右で比べてみるのがおすすめです。ふらつきに左右差があれば、それが体の使い方の偏りのサインになります。
なお、腕が上がらない状態が続く場合、四十肩・五十肩をはじめさまざまな原因が考えられます。夜間に強く痛む、腕にまったく力が入らない、しびれを伴うといった場合は、まず整形外科などの医療機関でご相談ください。
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