【症例報告】「口が2本指しか開かない」——食いしばりで顎関節症になった30代、女性会社員
患者:Sさん(30代、女性、会社員)
主訴:開口時の顎の痛み、口が大きく開かない(開口域制限)
経過:虫歯かと思い歯医者へいったら食いしばりと言われる。痛み止め13日分処方される。顎の痛みは1ヵ月前から気になりはじめ、1週間前から悪化。食事中に痛みが出るようになり来院する。硬いものを食べなければ痛みはでない。子供の頃から口をあけるとアゴはカクカクしていた。
Sさんは約1年前、サービス業の現場からデスクワークなり、4月に信頼のおける同僚が部署移動、その後、顎の痛みを感じるようになり、歯医者を受診。
初診時の開口域は約2横指(30mm以下)で、左顎関節に開口時の鋭い痛みがありました。左側頭筋に頭痛あり。
そこの歯医者さんはマウスピースはいらないとのこと。痛み止めを飲んで硬いものを食べずに安静に過ごすようにとのこと。当院ではアゴ周りの筋肉の緊張緩和、咬筋、側頭筋の鍼灸治療を行う。1回目で開口域が改善しその後ひと月以上来院なし。
後日「痛みなく口が大きく開けられるようになった」とのご報告をいただきました。カクカクとした感じは残存しているものの、痛みと開口制限は大幅に改善しています。
以下では、顎関節症に鍼灸がどのように関わるのかを解説します。
顎関節症とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 顎関節(耳の前にある下顎と頭蓋骨をつなぐ関節)および咀嚼筋(噛む筋肉)に生じる障害の総称。日本では成人の約15〜20%が何らかの症状を持つとされる。 |
| 主な症状 | ①開口時・咀嚼時の顎の痛み ②クリック音・ゴリゴリ音(関節雑音) ③開口制限(口が大きく開かない) ④顎のずれ・かみ合わせの違和感 ⑤頭痛・首こり・耳鳴りを伴うこともある |
| 分類(タイプ) | Ⅰ型:咀嚼筋障害 Ⅱ型:関節包・靱帯障害 Ⅲ型:関節円板障害(最多) Ⅳ型:変形性関節症 |
| 主な原因・誘因 | 食いしばり・歯ぎしり(ブラキシズム)、かみ合わせの異常、精神的ストレス、外傷(打撲・スポーツ)、姿勢不良(スマホ・デスクワーク) |
| 一般的な治療 | スプリント療法(マウスピース)、薬物療法(NSAIDs・筋弛緩剤)、理学療法、咬合調整、外科的治療(重症例) |
参考:顎関節症とは|日本歯科医師会 / 顎関節の疾患|日本口腔外科学会
鍼灸は顎関節症にどう効くのか
① 咀嚼筋(側頭筋、咬筋)の過緊張を緩める
顎関節症の多くは、咬筋(こうきん)、側頭筋、内側翼突筋などの咀嚼筋が慢性的に過緊張した状態にあります。食いしばりやストレスで筋肉が硬くなり、関節への負担が増す悪循環が起きます。鍼灸でこれらの筋肉に直接アプローチすることで、緊張を緩和し開口時の痛みを和らげます。施術後に「顎が楽になった」「口が開きやすくなった」と感じる方が多いのはこのためです。
② 自律神経を整えてブラキシズムを軽減
食いしばり、歯ぎしり(ブラキシズム)は、ストレスや睡眠の質の低下と深く関係しています。不規則勤務、高ストレス職では自律神経が乱れやすく、睡眠中の歯ぎしりが増えがちです。鍼灸は自律神経バランスを整え、夜間の過緊張を軽減することで、顎への慢性的な負担を減らすことを目指します。
③ 首、肩、頚椎のアライメント改善
顎関節症は「顎だけの問題」ではありません。頭の位置、首のカーブ、肩の緊張が顎関節のバランスに直結します。東洋医学では「胆経(たんけい)」という経絡が側頭部〜顎〜首〜肩を通ることから、これらを一体として治療します。首肩のコリを解消することで、顎関節への負担が軽くなります。
当院の顎関節症への治療アプローチ
急性期(痛みが強い、口がほとんど開かない)
炎症が強い時期は、関節局所への強い刺激は避け、軽めのお灸を施します。鍼では局所は軽めに、咀嚼筋の緊張緩和と全身の炎症を抑えるツボを中心に治療します。短い治療時間でも週2回のペースで通院いただくと経過が良好です。
使用するツボの例:下関(げかん)、頬車(きょうしゃ)、角孫(かくそん)、合谷(ごうこく)、内関(ないかん)、太衝(たいしょう)
回復期、慢性期(痛みが落ち着いてきた段階)
開口域を広げることと再発防止を目標に、咀嚼筋、頚部、肩の治療を組み合わせます。食いしばりの根本にあるストレス、睡眠の問題にもアプローチします。セルフケア(顎の体操・温熱)の指導も行います。
女性向けの特別なアプローチ
女性ホルモンの関係や、タンパク質不足で痛みが出るケースもあり、顎関節症を悪化させやすい生活環境にある方には、食事内容や生活習慣の見直しも合わせてご提案します。アレルギーが無ければ、肉、魚、大豆、納豆、豆乳、プロテインなどおすすめです。
ハリステーションでは施術だけでなく、自宅でのセルフケアや、職場でできる簡単なストレッチもお伝えしています。
歯科口腔外科との連携
顎関節症と診断された場合、まず歯科口腔外科、歯科(顎関節専門)での診断、治療を受けることを推奨します。スプリント(マウスピース)は夜間の歯ぎしり、食いしばりによる関節へのダメージを軽減するために非常に有効で、鍼灸との相性も良好です。
特に以下に当てはまる方は、歯科を優先してください:
- 開口域が著しく制限されている(指1本程度しか開かない)
- 強い痛みで食事がとれない
- 顎がロックして動かなくなった(クローズドロック)
- 外傷(打撲・事故)が原因の場合
当院では歯科での治療と並行して鍼灸を行うことで、より早い改善を目指します。スプリント使用中の方も問題なく受診いただけます。
よくあるご質問
Q. 顎のクリック音(カクカク音)も鍼灸で治りますか?
A. クリック音は関節円板のズレによるもので、鍼灸だけで完全になくすことは難しいケースもあります。数回の施術、半年以上かかる場合もありますが、痛みや開口制限の改善とともに軽減する方も多いです。いつの間にか「痛みがなく普通に食事できるようになった」を目標にします。
Q. 何回くらいで効果が出ますか?
A. 週2回ペースで3~4回を1クールとしています。三ヵ月、半年、一年かかる場合もありますが、急性期の痛みは早めに改善することが多く、慢性化している場合はもう少し時間がかかります。
Q. 食いしばりのクセは鍼灸で直せますか?
A. 食いしばりの根本にあるストレス、緊張、睡眠の質の問題に鍼灸でアプローチすることで、無意識の食いしばりが軽減する方はいらっしゃいます。ただし、日中の意識的なケア(上下の歯を離す習慣)との組み合わせが重要です。
Q. 仕事柄、顎を毎日使います。治療中も仕事を続けていいですか?
A. 問題ありません。ただし、施術直後に硬いものを噛むなど顎に負担をかけることは控えてください。乗務の前後に通院いただく方も多くいらっしゃいます。
Q. 顎関節症と肩こり、頭痛が同時にあります。
A. 顎関節症と頭痛、肩こりは密接に関連しています。当院では顎だけでなく首、肩、頭部も合わせて治療しますので、まとめてご相談ください。
まとめ:顎関節症と鍼灸
- 鍼灸は咀嚼筋の過緊張緩和・自律神経調整・頚肩バランスの改善の3つのアプローチで顎関節症にアプローチします。
- 歯科口腔外科のスプリント療法と並行して受けることで相乗効果が期待できます。
- CA・デスクワーカーなどストレス・姿勢が原因の顎関節症に特に有効です。
- クリック音より「痛みなく食事・会話できる」状態の回復を目標にします。
「歯科でマウスピースを作ったけど改善しない」「顎の痛みが仕事に影響している」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
恵比寿鍼灸院ハリステーションでは、顎関節症の鍼灸治療相談を随時承っています。





コメント