引っ越しで腰を痛めた、という話をよく聞きます。ほとんどの方が「重い荷物を持ったから」と説明されます。
でも、実際に起きていることは少し違います。重い物を持ったのは引き金であって、腰が壊れる下地は、その前からできあがっています。
引っ越しは「判断」が止まらない数週間
引っ越し作業の前には、これだけのことが同時に起こります。
- 物件を探して、内見して、決める
- 不動産会社とのやりとり、契約、初期費用の手配
- 転出届・転入届
- 仕事に関わる各種の届け出、住所変更
- クレジットカード、銀行、証券口座の住所変更
- サブスクリプションや定期便の登録先変更
- 粗大ごみの申し込みと搬出日の調整
- フリマアプリでの出品、値下げ交渉、梱包、発送
- 旧居の退去や立ち会いの日程調整
一つひとつは重くありません。5分で終わるものもあります。問題は、これが何週間も途切れないことです。
仕事と並行しながら、ひとつ終わらせても、次が出てくる。「あれはまだだ」「これも期限がある」と、頭の中のリストが動き続ける。判断が止まらない状態が続きます。
判断の連続こそ、慢性的な疲れを引き起こします。
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そして最後に、睡眠が削られる
個人差はあると思いますが、引っ越しが近づくと、作業は夜に片寄っていきます。日中は仕事があるからです。
荷造りは、終わりが見えてくると止まらなくなります。「今日はここまで」と決めたはずが、気づけば深夜になっている。
引っ越しが近づくにつれて睡眠不足の方も出てくるでしょう。
つまり引っ越しの終盤は、体を回復させる睡眠が圧倒的に不足がちになります。
そこへ「うっかり」が来る
引っ越し当日、あるいは荷解きのとき。
疲れた頭で、考えずに段ボールを持ち上げます。膝を使わず、前のめりに上から荷物を持ち上げます。
腰に来ます。
判断力が落ちているから、体をかばう手順が飛ぶ。
腰は、最後に壊れます。壊れる準備は、もっと前から整っています。
東洋医学では「腎虚」と考えます
東洋医学では、この状態を腎虚(じんきょ)と見ます。
腎は、体の土台をつくり、たくわえておく力です。生まれ持った分と、日々の休息でたまっていく分の、両方を管理しています。
腎を減らすものは、はっきりしています。休まないこと。眠らないこと。気を張り続けること。引っ越しの数週間は、この3つがそろいます。
そして、腰は腎の府と言われます。腎の状態が最初に表れる場所が腰です。
だから、引っ越しで腰にくるのは偶然ではありません。消耗が「腰」という形をとって表面化した、と考えるほうが実態に近いと思います。
同じ重さの段ボールを、よく眠った日に持ち上げたら、おそらく何も起きません。
こんなときは、先に整形外科へ
次のいずれかがある場合は、鍼灸より先に受診してください。
- 足にしびれが出ている
- 足に力が入らない、つまずくようになった
- 排尿や排便がしにくい、感覚がおかしい
- 発熱を伴う
- 転倒や打撲など、はっきりした外傷がある
腰の痛みには、神経の圧迫や骨の問題が隠れていることがあります。順番を飛ばさないでください。
荷造り前・当日・翌日にできること
荷造りを始める前
- 段ボールは「持てる重さ」で詰める。本は小さい箱に分ける
- 箱を床に直置きしない。台や別の箱の上に置くと、床から拾い上げる回数が減る
当日
- 持ち上げる前に、一度息を吐く。それだけで腰の力の入り方が変わります
- 15分に一度、まっすぐ立って上を向く。中腰から一度抜ける時間をつくる
翌日
- 痛みが出たら、温めるか冷やすかで迷わないこと。動かせないほど痛いなら冷やす、重だるいだけなら温めるが目安です
- 横になるときは、膝の下にクッションを入れると腰がラクになります
当院ではどう診るか
引っ越し後の腰痛で来られた方に、腰だけを診ることはしません。
脈と、お腹と、腰の奥を診ます。腎虚があるときは、脈が弱く、そして遅いことがあります。腰の奥にも力が入っていません。
施術は仰向けから始めます。腰が痛い方をいきなりうつ伏せにすると、それだけで負担になるからです。お腹をゆるめ、足の疲れを抜いてから、うつ伏せで腰まわりに入っていきます。
鍼が初めての方や、痛みが強くて触られたくない方には、お灸と手技だけで組み立てることもできます。引っ越し直後は体力そのものが落ちているので、刺激量は普段より減らします。
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食事は、いちばん最初に崩れています
最後にもうひとつ。
引っ越し期間中、食事は必ず雑になります。コンビニ、カップ麺、冷たい飲み物。台所が使えない日もあります。
腎を養うのは休息ですが、日々の材料は食べたものから入ります。引っ越しが終わってからも腰が長引く方は、たいてい食事が戻っていません。
腰の痛みが引いたあとに、だるさや食欲の落ち込みが残る場合は、そちらを整えるほうが早いことがあります。
新居での生活が始まると、荷ほどきという第二ラウンドが待っています。「全部終わってから休む」ではなく、途中で一度体を戻しておくほうが、結果として早く片づきます。
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