台風が近づくと、決まって頭が重くなる。雨の前日に古傷がうずく。天気予報より自分の体の方が早い——そんな方が、この時期に増えます。
「気のせい」と言われ続けてきた方も多いと思いますが、気圧の変化と体調の関係は、近年少しずつ研究が進んでいる分野です。この記事では、なぜ気圧で不調が出るのか、そして自分でできることと、医療機関にかかるべき目安を整理します。
天気痛とは何か
天気の変化に伴って出る不調の総称で、気象病とも呼ばれます。医学的に確立した病名ではありませんが、頭痛、めまい、倦怠感、関節痛、気分の落ち込みなどが、天候の変化と重なって現れるものを指します。
特徴は次の3つです。
- 天気が崩れる「前」に出ることが多い(雨が降ってからではなく、降る前日や数時間前)
- 検査では異常が出ないことがほとんど
- 毎回、同じ症状が同じ場所に出る(この人は頭、この人は膝、と決まっている)
3つ目が意外に大切で、「毎回ちがう場所が痛む」場合は別の原因を考えた方がよいこともあります。
なぜ気圧が下がると不調が出るのか
はっきりとした仕組みはまだ解明されていませんが、有力な説明のひとつが内耳の関与です。
耳の奥にある内耳には、体の平衡感覚を担うセンサーがあります。ここが気圧の変化を感じ取り、その情報が脳に伝わる際に、自律神経のバランスに影響すると考えられています。
自律神経は、血管の太さ、心拍、消化、発汗などを無意識に調整している仕組みです。ここが揺さぶられると、
- 血管が広がることで頭の血管まわりが刺激され、頭痛になる
- バランス感覚の情報が乱れてめまい、ふわふわ感が出る
- 交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかず、強い眠気やだるさが出る
といったことが起こり得ます。乗り物酔いをしやすい人は天気痛も出やすいと言われますが、これも内耳が関係していると考えると説明がつきます。
古傷や関節が痛む理由については、気圧が下がることで組織内の圧力バランスが変わり、もともと感覚が過敏になっている場所が刺激されるため、と説明されることが多いです。
気圧の変化で出やすい症状
- 頭痛、頭が重い、こめかみが締めつけられる
- めまい、ふらつき、耳のつまり感
- 首や肩のこりが強くなる
- 古傷、手術のあと、関節の痛み
- 体が重い、強い眠気、やる気が出ない
- 気分が落ち込む、いらいらする
- むくみ、お腹の張り
「痛み」だけでなく、だるさや気分の落ち込みも同じ仕組みで起こり得ることは、あまり知られていません。台風の前に何もやる気が起きないのは、性格の問題ではないかもしれません。
東洋医学では「湿」と「脾」で考えます
東洋医学には、体の外側の環境が体調に影響するという考え方があり、湿気の影響を湿邪と呼びます。
湿は重く、下に降りて停滞する性質があるとされます。そのため湿の影響を受けると、体が重だるい、頭が重く締めつけられる、むくむ、食欲が落ちてお腹が張る、といった「重い」「停滞する」症状が出やすいと考えます。
そして湿の処理を担うのが脾です。脾は西洋医学の脾臓とは違い、食べたものから気血をつくり、水分をさばく働き全体を指します。
夏は、冷たい飲み物、冷房、汗のかきすぎで脾が弱りやすい季節です。そこへ台風の湿気が加わると、さばききれない水分が体に停滞する——これが東洋医学から見た天気痛の説明になります。
つまり、天気は変えられませんが、受け止める側の脾を整えておくことはできる、という発想です。
台風が近づく前にできること
1. 耳のまわりをゆるめる
内耳が関わっているとすれば、耳の周囲の血流は無視できません。
- 両耳を軽くつまんで、上・横・下にそれぞれ5秒ずつ引っぱる
- そのまま後ろに5回まわす
- 耳の後ろの骨のきわを、指の腹でゆっくりなでおろす
朝と、天気が崩れそうな日の日中に。強く引っぱる必要はありません。
2. 水分を「常温で、こまめに」に切り替える
むくむからと水分を減らすのは逆効果になりがちです。減らすのではなく、冷たいものを常温に変える。一度にたくさんではなく、少量をこまめに。
3. 前日に、体を軽く動かしておく
停滞が問題なので、動かすこと自体が対処になります。激しい運動は不要で、10分の散歩や、肩を回す程度で構いません。
4. お灸を使う場合
セルフケアでお灸を使う方は、足の内くるぶしから指4本分上の三陰交、膝の外側の下の足三里あたりが、水分の巡りや胃腸の働きに関わるツボとして古くから使われています。やり方はお灸セルフケア完全ガイドにまとめています。
医療機関を受診する目安
天気のせいにしてはいけないものがあります。次のような場合は、天気痛と決めつけず、必ず医療機関を受診してください。
- 今まで経験したことのない、突然の激しい頭痛
- 頭痛に加えて、手足のしびれ、力が入らない、ろれつが回らない、視野が欠ける
- 発熱、嘔吐、意識がもうろうとする
- 回転性の激しいめまいが続く、耳が急に聞こえにくくなった
- 頭痛の頻度や強さが、ここ最近はっきり増えている
特に、急に聞こえが悪くなった場合は耳鼻科を早めに受診してください。発症からの時間が経過に関わる病気があります。
また、天気痛だと思っていたものが、片頭痛や緊張型頭痛、貧血、更年期の不調、頸椎の問題であることもあります。頭痛が続く場合は一度、医療機関で相談することをおすすめします。鍼灸はそのうえで、併用して受けていただくのが安全です。
鍼灸ではどう診るか
当院では、気圧で不調が出る方に対して、症状の出ている場所だけを診ることはしません。見ているのは主に3つです。
- 首から後頭部、耳のまわりの緊張(内耳と自律神経に関わる領域)
- お腹の状態(脾の働き、冷えているか、張っているか)
- 足のむくみや冷え(水分の停滞が下に出ていないか)
天気痛を訴える方は、頭の症状で来られても、お腹が冷えて硬いことが少なくありません。頭だけをゆるめても翌月の台風でまた同じことが起こるため、胃腸と足元を含めて整えていきます。
天候そのものは変えられませんが、同じ気圧の変化を受けたときの、体の振れ幅を小さくしていく——それが目標になります。
よくある質問
Q. 天気痛は治るものですか。
天気の変化は毎年繰り返すため、「二度と出ない」を目標にするより、出たときの程度と持続時間を小さくしていく方が現実的です。
Q. 台風が来てから施術を受けても意味がありますか。
不調が出てからでも構いませんが、体調を崩しやすい方は、天気が崩れる前の時期に整えておく方が負担が少なくて済みます。
Q. 薬と併用しても大丈夫ですか。
服用中のお薬がある場合は、そのまま続けてください。中止や減量は必ず処方した医師にご相談ください。
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