「肩がこる」と言いながら、押しているのは鎖骨の下
手芸や裁縫を長時間していると、肩や首ではなく、鎖骨のすぐ下あたりが重くなる方がいらっしゃいます。気づくと指で押してほぐしていて、その時は楽になるのに、しばらくするとまた同じ場所に戻る。
この場所は、東洋医学では雲門(うんもん)というツボがあるあたりです。自分の指が届くので、つい押してしまうのですが、押しても戻るのには理由があると考えています。
腕を上げ続ける作業で、何が起きているか
手芸、裁縫、編み物、料理、髪を扱う仕事、小さなお子さんの抱っこ。共通しているのは両腕を持ち上げたまま、手先で細かい作業を続けるという姿勢です。
この姿勢では、腕の重さを支え続けるために、鎖骨の下から肩の前にかけての筋肉が働き続けます。大胸筋や小胸筋、上腕二頭筋、三角筋の前側といったあたりです。これらは腕を「上げる」ためというより、腕の重さに引かれないよう支え続けて疲れていくと当院では考えています。
さらに、座って行う作業なので背中は丸くなります。背骨が動かなくなると胸は閉じたままになり、胸の前の筋肉は縮んだ状態で固定されます。こっているのは胸の前でも、背中が動いていないことが背景にあることが少なくありません。
東洋医学から見ると、胸だけの問題ではありません
当院がこの症状で必ず確認するのは、お腹と呼吸です。
猫背の姿勢が続くと、体は前に折れた状態になり、お腹が圧迫されます。胃が押されると、その分だけ肩は前に入り、胸が閉じて呼吸が浅くなります。呼吸が浅いままだと胸の前の筋肉は緩む機会を失い、こりは腕の疲れとして戻ってくる。この循環が起きていると考えています。
東洋医学では腕の症状は肺経、大腸経とあり肺経は、息が入っていく胸の中心から始まり、鎖骨の下を通って、腕の内側を親指へ下っていく流れがあるとされています。雲門や中府といったツボは、ちょうどその通り道の入口にあたります。腕の内側の疲れと、鎖骨の下のこりが一緒に出てくるのは、同じ流れの上にあるためと当院では考えています。さらにこの流れは、人差し指から肩へ上がっていく流れ大腸経とつながります。
ですから、こっている胸の前だけを触っても十分ではありません。当院では腕とお腹の両方に施術します。腕は経絡のつながりから、お腹は呼吸を深くするためです。胸のこりで来られた方のお腹に触れると驚かれることがありますが、こうした理由からです。
※これは東洋医学の考え方に基づく当院の見立てであり、特定の部位が症状の原因であると断定するものではありません。
自分で押しても戻ってしまうとき
指で押すと一時的に軽くなるのは、表面の緊張が緩むためと考えられます。ただ、腕を支える負担、背中が丸いままという条件、そして浅い呼吸が変わらなければ、同じ場所に戻ります。
押しても数時間で戻る、作業を再開するとすぐ張ってくる。そんなときは、押す場所ではなく、肩周りの動きと呼吸により背骨の動きを取り戻すほうが近道になることがあります。
ご自宅でできること
- 作業の合間に、両腕を後ろに引いて胸を開く。30秒で構いません。閉じ続けた時間の分だけ、開く時間を作ります
- 背中を反らせる、肩甲骨を寄せる。胸の前をほぐすより、背中を動かすほうが結果的に楽になる方が多いです
- 温める。冷房の効いた部屋で長時間座る作業では、肩から胸にかけて冷えています
- 作業時間を区切る。夢中になっているときほど、姿勢は固まっています
繰り返す不調の背景に、胃腸の状態が関わっていることもあります。詳しくは繰り返す不調と胃腸の関係をご覧ください。
鍼が苦手な方へ
「鍼灸院に行きたいけれど、鍼が怖い」という方は少なくありません。当院では、鍼が苦手な方には手技とお灸を中心に組み立てることができます。
鍼を使う場合も、深く刺すことがすべてではありません。皮膚に触れる程度、1ミリに満たない深さで組み立てることもできます。「鍼を刺す」と聞いて想像されるものとは、かなり違うはずです。
お灸も、点で据えるものだけではありません。当院では越石式灸法という、広い面をやわらかく温めていく方法も用いています(施術者は講習を修了しています)。ツボに一点ずつ据えるお灸とは別のもので、熱さが苦手な方にも受けていただけます。
肩関節の動く範囲を広げていく手技と組み合わせ、胸の前だけを狙わずに全体をゆるめていきます。苦手なものを我慢して受ける必要はありませんので、初回に遠慮なくお伝えください。
こんな場合は医療機関へ
腕や手にしびれがある、力が入りにくい、腕を上げると強い痛みが走る、夜間に痛みで目が覚める——こうした場合は、整形外科などの医療機関でご相談ください。胸郭出口症候群や、肩関節そのものの問題が隠れていることがあります。
よくあるご質問
Q. 押してほぐすのは、やめたほうがいいですか?
やめる必要はありません。ただ、押しても戻るようなら、胸の前ではなく背中を動かすほうを試してみてください。
Q. 手芸をやめないと治りませんか?
そうではありません。楽しみを取り上げるのが目的ではなく、続けられる体の使い方に整えるのが目的です。
Q. 鍼を使わずに、お灸と手技だけでもお願いできますか?
はい、可能です。初回のカウンセリングでお伝えください。




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