「朝、どうしても起きられない」——こういったお子さんの状態に悩んでおられるご家庭は少なくありません。今回ご紹介するのは、高校1年生の2月ごろ急に朝起きられなくなり、学校を休むようになってしまった、男子生徒の経過です。
朝起きられない高校生に、何が起きていたか
症状:朝起きられない、頭痛、強い倦怠感(高校1年生・2月から)
- 10代・男子高校生
- 1月末から頭痛が続き、2月に入って強い倦怠感が出はじめた
- 朝、どうしても起きられず学校を休むようになった
- 湯船に浸かるとそのまま眠ってしまう
- 歯を食いしばる癖があり、猫背の姿勢
- 急に背が伸びた時期で、体重も増えていた
思春期のお子さんが朝起きられなくなったとき、多くのご家庭がまず心配されるのが起立性調節障害です。このご家族も例外ではなく、複数の医療機関を回られたそうです。
「検査では異常なし」と言われたあとの行き場
複数の検査を受けても、はっきりとした原因は見つかりませんでした。血液検査でも大きな問題は指摘されていません。
「異常がない」と言われることは、安心であると同時に、行き場を失うことでもあります。本人は現に起きられず、学校に行けていないからです。
原因が特定されないまま時間だけが過ぎる——この段階の選択肢として”鍼灸”をお選びいただきました。
東洋医学からみた見立て|体の成長に、心と自律神経が追いついていない時期
この年代の不調を、当院では「体が先に大きくなり、心が追いついていない時期」として捉えました。
急に背が伸びるとき、伸びているのは身長だけではありません。ですが、体を調節する自律神経のはたらきや、心の成熟は、体と同じ速度では進みません。体の成長と、心のバランスが取れていない状態——朝起きられない、だるい、頭が痛いという形で出てくるのは、その現れだと考えています。
思春期は、本人の気持ちや意志とは関係なく、体の中で大きな変化が起きている時期です。「気合いが足りない」という話ではありません。
あわせて気になったのが食生活でした。甘いものが好きで、野菜はあまり口にせず、水分もほとんど摂らない。東洋医学では、食べたものを体に変えるはたらきを「脾胃(ひい)」と呼び、ここが弱ると全身に力が行き渡らないと考えます。体をつくる材料が多く必要な時期に、その土台となる部分にゆとりがない状態とみて、施術と生活の両面から手を入れることにしました。
なお、食いしばりによる側頭部・後頭部の緊張が頭痛につながっており、猫背の姿勢がそれを固定していました。
※これは東洋医学の考え方に基づく当院の見立てであり、食生活や成長が症状の原因であると特定したものではありません。
施術内容と、生活習慣として変えてもらった3つのこと
初回は、細い鍼を使って全身を整えることから始めました。自律神経系の症状では背中と頭の緊張をメインに整えていきます。
- 百会・足三里への置鍼
- お腹への施術(腹部の緊張をゆるめる)
- うつ伏せで背面全体を調整
- 翳風・天柱・風池など、後頭部から首にかけて
- 内関・三陰交、失眠へのお灸
そのうえで、ご本人にお願いしたのは難しいことではありません。白湯を飲むこと。甘いものを少し控えること。姿勢を意識すること。この3つだけです。
高校生だからというわけではなく、当院ではだれに対してもお伝えしている内容です。白湯は朝晩。夏場は天然塩を一つまみ入れて飲むのがよろしいかと。甘いものは筋肉と気持ちを緩めます。緩み過ぎては起きるのも億劫になりがちです。姿勢は血流を良くします。猫背、ストレットネック、食いしばりでは脳へ向かう血流にも影響がでやすいでしょう。
視線を正面に立て直す。遠くを見る時間を取りいえる。空気を沢山吸えるようになると胸も背中も緩んで血流も良くなります!
経過|3週間後に朝が変わり、翌年度に登校が戻った
2回目にお越しになったのは3週間後でした。開口一番、「朝、起きられるようになった」と教えてくださいました。水を意識して飲むようになったそうです。ただしこの時点では、まだ学校には行けていません。
そこから、頭痛と食いしばりへのアプローチを続けました。
春に進級し、高校2年生になってからは、無事に登校できるようになりました。
なんなら野球部に入り朝晩の練習に精を出していると聞いて私も驚きとともに嬉しく思いました。そして初診から約4か月後、この方の主訴は変わります。「運動部の練習で、脚が張っている」——学校に通い、部活で体を動かした結果の筋肉痛です。元気でよろしい!
以降1年以上、学校の課題や試験で夜更かしが続き、生活リズムが崩れる時期もありました。ですが崩れても戻せるようになり、今は調整がメインで月一でお越しになっています。腰や膝、筋肉痛など、その時、気になっている症状と合わせて施術しております。
繰り返さないための視点|整えたのは、朝ではなく土台
この方の場合、鍼灸で整えたことと同じくらい、白湯を飲む・甘いものを控えるという食生活の変化が決め手になったと考えております。
自律神経の不具合もあるでしょうが、一つの可能性として、朝起きられない状態を「気合いの問題」でも「一時的なもの」でもなく、体をつくる力が追いついていないサインとして捉えると、打つ手が変わります。詳しくは 繰り返す肩こり・腰痛と胃腸の関係 をご覧ください。
お子さんが朝起きられないご家庭へ
朝起きられない状態が続くとき、起立性調節障害をはじめ、医学的な評価が必要な状態が隠れていることがあります。まずは小児科や思春期外来でご相談ください。
そのうえで「検査では異常がない」と言われた場合に、鍼灸という選択肢があります。当院にお越しになる10代、20代前半の方は少なくありません。学生に合わせた刺激量で身体を整えていきます。
なお、経過には個人差があります。この方の場合は、3週間で朝の状態が変わり、登校に戻るまでには数か月を要しましたが、人それぞれです。焦らず、そのときの環境と付き合っていく。その間に鍼灸や生活習慣の見直しを取り入れてもらえれば幸いです。
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