症例

長引く咳に鍼灸|検査で異常がない乾いた咳、季節の変わり目の咳を東洋医学でケア【鍼灸師監修】

症例:会社員Tさん(40代・男性)の長引く乾いた咳

主訴:2週間以上続く乾いた咳(たんはほとんど出ない)、特に就寝時や会話中に咳き込みやすい

経緯:季節の変わり目に風邪のような症状が出た後、熱や鼻水は治まったものの咳だけが残り、2週間以上続いていました。心配になり内科を受診し、胸部レントゲンと血液検査を受けましたが「肺に異常はない」「喘息の所見もない」「背骨にゆがみがある」と言われました。仕事が忙しく、寝不足や緊張が続いていた時期と症状の悪化が重なっていることに気づき、当院にご相談くださいました。

当院での所見

喉から首、肩にかけて強い緊張があり、呼吸が浅くなっていました。話している最中にも咳き込む様子があり、緊張やストレスで交感神経が優位な状態が続いているように見受けられました。検査で肺や気管支に明らかな異常がない一方で、咳だけが続いているという、いわゆる「検査では異常が見つからない不調」に近い状態でした。

長引く咳とは

長引く咳の一般的な情報について、日本呼吸器学会の解説を参考にまとめました。

項目 内容
からせきの目安 風邪によるせきは通常3日以内でピークを越えて治まりますが、3週間以上続く場合は「遷延性咳嗽」「慢性咳嗽」と呼ばれます。
主な原因 感染後咳嗽、気管支喘息、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、降圧薬の副作用、間質性肺炎、肺がんなどが考えられます。
ストレスとの関連 どの病気にもあてはまらない場合、精神的ストレスが関係する心因性のせきということもあると説明されています。
検査 胸部レントゲン、CT、血液検査、呼吸機能検査などで原因疾患の有無を確認します。
受診の目安 からせきが長引き心配な場合は、呼吸器内科の受診が勧められています。

出典:日本呼吸器学会「呼吸器Q&A Q1. からせき(たんのないせき)が3週間以上続きます。」

東洋医学から見た長引く咳

東洋医学では、咳は「肺」の働きと深く関わると考えられています。肺は「気」を全身に巡らせる働きを担っており、ストレスや緊張、過労が続くと肺の働きが乱れ、のどや気道が過敏になりやすくなります。

季節の変わり目は「燥邪(そうじゃ)」と呼ばれる乾燥した邪気の影響を受けやすく、肺の潤いが不足する「肺陰虚」の状態になると、乾いた咳が続きやすいと考えられています。

また、ストレスによる「肝」の乱れが「肺」に影響を及ぼし(肝火犯肺)、のどのつかえ感やイガイガ感を伴う咳として表れることもあります。今回のケースのように、検査で明らかな異常が見つからない時期にも咳だけが続く場合は、こうした体質的な要因が関わっていることが多いです。

当院の治療アプローチ

①自律神経と呼吸の浅さを整える

西洋医学では、「骨格のゆがみ(構造)」が「自律神経の乱れ(機能)」を引き起こし、それが「気道の過敏性(症状)」を長引かせるという物理的な因果関係として捉えます。

側弯と交感神経の物理的な関係

脊椎(背骨)のすぐ脇(前外側)には、交感神経幹(こうかんしんけいかん)という、交感神経の神経節が数珠つなぎになった重要な通り道が走っています。

  • 背骨に側弯(左右のゆがみや捻れ)があると、周辺の筋肉(脊柱起立筋や回旋筋など)が左右不均等に緊張し、慢性的に凝り固まります。

  • この筋肉の過緊張や骨の微細なズレが、交感神経幹を物理的に刺激・圧迫し続け、交感神経が過剰に興奮しやすい状態を作ります。

自律神経と「乾いた咳」のメカニズム

呼吸器(気管支)の太さは、自律神経によってコントロールされています。

  • 交感神経が優位なとき: 気管支は拡張します(空気を多く取り込むため)。

  • 副交感神経が優位なとき: 気管支は収縮します(休息時に異物の侵入を防ぐため)。

「交感神経が優位なら気管支が広がるから、咳は出にくいのでは?」と思われがちですが、ここに落とし穴があります。

交感神経の過剰な興奮が続くと、血管が収縮して気道粘膜への血流が低下します。その結果、粘膜が乾き、気道を保護する粘液(分泌物)が減ってしまいます。 粘膜がカラカラに乾いた状態で、夜間やリラックス時、あるいは冷たい空気を吸った瞬間に副交感神経へスイッチが切り替わると、乾燥して過敏になった気管支が一気に収縮します。これが、痰を伴わない「コンコン」という激しい乾いた咳(空咳)を誘発し、長引かせる原因になります。

さらに、側弯によって肋骨の動き(胸郭の拡張性)が制限されると、呼吸が浅くなります。浅い呼吸はさらに交感神経を刺激するため、不調のループに陥りやすくなります。

緊張や寝不足が続くと呼吸が浅くなり、のどや気道が過敏な状態が続きやすくなります。鍼灸で全身の緊張を緩めることで、自律神経を整え、深い呼吸ができる状態を目指します。

②ツボへのアプローチ

背骨に沿った緊張を緩ませる。督脈の使用。首のツボ天突(てんとつ)、腕のツボ尺沢(しゃくたく)、太淵(たいえん)、背中のツボ、肺兪(はいゆ)など、姿勢改善と肺の働きに関わる経絡を中心に施術します。

③タイプ別の対応

肺陰虚タイプ(乾燥による乾いた咳)、肝火犯肺タイプ(ストレスによるのどのイガイガ感)など、咳の背景にある体質を見極めて、ツボの組み合わせを調整します。

④セルフケアのご提案

のどを乾燥させない工夫(マスク、加湿)、深呼吸、太淵へのお灸などのセルフケアもあわせてご提案しています。

呼吸器内科との連携について

咳が長引く場合、まず気をつけたいのは「重大な病気が隠れていないか」という点です。日本呼吸器学会によると、からせきが3週間以上続く場合、気管支喘息、咳喘息、胃食道逆流症、間質性肺炎、肺がんなど様々な病気が原因として考えられ、胸部レントゲンや血液検査などでの確認が必要とされています。

鍼灸は、これらの疾患そのものを治療するものではありません。次のような場合は、まず呼吸器内科を受診してください。

  • 血痰がある
  • 38度以上の高熱を伴う
  • 呼吸が苦しい、息切れがある
  • 体重が急に減っている
  • 咳が悪化している、またはなかなか治まらない

今回ご紹介したような、検査で異常が見つからず、ストレスや季節の変化が関係していると考えられる乾いた咳に対するサポートとして、鍼灸を取り入れていただくのがおすすめです。

よくあるご質問

Q. 風邪が治ったのに咳だけ残っています。鍼灸は効果がありますか?
A. 感染後咳嗽と呼ばれる、感染症が治った後も気道の過敏な状態が続くことで咳が残るケースは多くあります。鍼灸で全身の緊張を緩めることで、咳が落ち着きやすくなる方もいらっしゃいます。

Q. 咳喘息と診断されています。鍼灸は受けられますか?
A. 治療中でも問題なく受けていただけます。ただし、吸入薬など医療機関での治療を優先し、鍼灸はあくまでサポートとしてご利用ください。

Q. 季節の変わり目に毎年咳が出やすいです。予防的に通うことはできますか?
A. はい。毎年同じ時期に症状が出やすい方は、症状が出る前から自律神経や体質を整えておくことで、咳が出にくい状態を目指せる場合があります。

Q. 何回くらい通えば変化がありますか?
A. 体質によって異なりますが、週1回程度を数回続けていただく中で、咳の頻度や強さに変化を感じる方が多いです。

まとめ:長引く咳と鍼灸

  • 風邪による咳は通常3日以内でピークを越えますが、3週間以上続く場合は「遷延性咳嗽」「慢性咳嗽」と呼ばれ、様々な病気が原因として考えられます。
  • 東洋医学では、肺気の乱れ、季節の乾燥(燥邪)、ストレスによる肝火犯肺などが長引く咳に関わると考えます。
  • 鍼灸は呼吸器疾患そのものの治療ではなく、検査で異常が見つからない咳やストレス性の咳へのサポートとして取り入れていただけます。
  • 血痰、高熱、呼吸困難、体重減少を伴う場合は、まず呼吸器内科を受診してください。

「風邪は治ったのに咳だけ続いている」「検査では異常がないのに咳が出やすい」という方は、一度ご相談ください。恵比寿、渋谷の鍼灸院ハリステーションでは、長引く咳のご相談も承っています。

廣木 孝志

廣木 孝志

2022年11月、恵比寿で個室鍼灸院を開業/痛みの緩和、全身調整が得意/セルフケア提案とコンディショニングを大切にしています。

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