「テレビの音量を下げても、まだ大きく感じる」「人の話し声が、刺さるように響く」——音そのものは変わっていないのに、耳がその音を受け止めきれない。こうした状態は聴覚過敏と呼ばれます。
当院にも、季節の変わり目や、仕事が立て込む時期が続いたあとに、このご相談が入ることがあります。ただ、鍼灸の話をする前に、先にお伝えしておきたいことがあります。聞こえ方の変化は、まず耳鼻科で診てもらう症状です。鍼灸はそのあとの話になります。
「音が大きく聞こえる」と「音がうるさくてつらい」は同じではない
ひとくちに音がつらいといっても、訴え方はさまざまです。
- 音量そのものが実際より大きく感じられる
- 特定の高さの音(食器の音、金属音、子どもの声など)だけが刺さる
- 左右のどちらか片側だけがつらい
- 耳の詰まった感じや耳鳴りを一緒に感じる
ご本人にとってはどれも「音がつらい」ですが、耳の中で起きていることは同じとは限りません。そしてこの違いは、問診や触診では区別がつきません。
まず耳鼻科へ ── 鍼灸院がそう書く理由
鍼灸院がこう書くのは、患者さんを遠ざけるためではありません。私たちには区別できないからです。
聞こえ方の変化を客観的に見分けられるのは聴力検査だけで、鍼灸師が耳のまわりに触れてわかるものではありません。また、耳に炎症を伴っている場合は、まず医療機関での治療が優先されます。炎症が残ったままでは、経過が長引きやすいためです。
特に、次のような場合はできるだけ早く耳鼻科を受診してください。
- 急に聞こえが悪くなった、耳が詰まった感じが続く
- 強いめまいや吐き気を伴う
- 顔が動かしにくい、口元がゆがむなどの症状を伴う
- 耳の痛みや発熱がある
当院にご相談いただく方の多くは、耳鼻科で検査を受けたうえで来られます。「検査では大きな異常はないと言われた」という段階からが、鍼灸の出番だと考えています。
※院長自身も、耳のこもりを感じたときに自分では区別がつかなかった経験があります。その経緯は突発性難聴に鍼灸|耳が突然聞こえなくなったら最初にすることに書いています。
音に敏感な方が来院されたとき、当院がしていること
聴覚過敏のご相談で、当院が施術より先にしていることがあります。
問診の声を落とし、つらい側の耳のそばに立たないこと。反対側に回るか、正面から少し距離をとってお話をうかがいます。ふだんの説明の声量が、その方にとっては大きすぎることがあるからです。
あわせて、施術中の物音にも気を配ります。金属のトレーに鍼を置く音、カーテンを引く音、機器のスイッチ音。ふだんは気にならない音が、この状態の方にはひとつひとつ響きます。
刺激量も同じ考え方です。音に敏感なときは、体に入る刺激にも敏感になっていることが多いと考えています。そのため当院では、1ミリに満たない浅い刺鍼や、手技とお灸を中心とした組み立てもできるようにしています。鍼が苦手な方、刺激に弱い方でも受けていただけます。
東洋医学では、耳をどう見るか
東洋医学では、耳は「腎」と深く関わる場所と考えます。ここでいう腎は、臓器としての腎臓のことではなく、体の土台になる力(精)をたくわえておく働きを指します。
この精は、年齢とともに少しずつ目減りしていくものとされています。誰にでも起こることです。土台が薄くなってくると、耳のようにこまやかな働きをする場所から先に変化があらわれやすい、と東洋医学では考えます。当院では、音がつらいという訴えの背景に、まずこの腎の力の目減りを見ています。
もうひとつ、当院が必ず診るのが首です。首がゆがんだまま固まっていると、頭へ向かう通り道にゆとりがなくなります。当院が首から手をつけるのは、頭へ向かう流れがめぐりやすい状態をつくることが目的です。
肩こりや肩甲骨まわりのこわばりは、多くの場合「姿勢」というひとつのくくりで見ています。忙しい時期が続くと、肩を上げ、あごを引いて、首の後ろを縮めた姿勢のまま長い時間を過ごすことになります。首・肩・肩甲骨は別々の問題ではなく、同じ姿勢の結果としてつながっている、というのが当院の見方です。
※これは東洋医学の考え方に基づく当院の見立てであり、腎の力や首のゆがみが聴覚過敏の原因であると特定したものではありません。
当院のアプローチ
見立てに沿って、次の3つを組み立てます。
- 首/横向きで、耳の後ろのくぼみ(翳風)を中心に、首すじのゆがみとこわばりをゆるめていきます。頭へ向かう流れの通り道にゆとりをつくることが目的です。耳門、聴宮、この辺りも深く鍼をいれることで内耳まで響きを与えることがあります。
- 姿勢/肩から肩甲骨のまわりへ。肩こりと肩甲骨のこわばりは分けずに、首を縮めた姿勢そのものとして扱います
- 土台/うつ伏せで腰まわり(腎兪のあたり)へ。腎の力を支える場所で、体質の側から底上げしていくところです
刺激量は控えめなところから始め、その日の状態を見ながら調整します。回数や期間をお約束することはしていません。体の状態も、生活の忙しさも人によって違うためです。初回の施術のあと、ご本人の感じ方を聞きながら間隔を決めていきます。
ご自身でできること
- 耳の後ろから首の付け根を温める。蒸しタオルを当てる、湯船で首まで浸かるなど
- 耳そのものを強くもまない。つらい部分ほど触りたくなりますが、敏感になっているときは刺激が残りやすくなります
- 音の避け方は、耳鼻科の指示を優先してください。耳栓などの使い方は状態によって判断が分かれるため、自己判断で決めないほうが安全です
- 腎臓=豆。東洋医学では腎臓と形が似ているとあり、古くから豆を取り入れています。黒豆は「腎」を補う代表格です。老化防止(アンチエイジング)や白髪予防、耳鳴りの改善、水分代謝の促進に効果的です。湯豆腐も腎臓を養うにはおすすめ。お味噌汁の具として大きめにカットした豆腐でも良いです。
同じ時期に、また繰り返さないために
耳のご相談は、季節の変わり目や、仕事が立て込んで休む時間が構造的に足りなくなる時期に重なることがよくあります。そういう時期は、食事の時間が後ろにずれ、簡単に済ませる日が増えます。
先ほど、耳は腎=体の土台と関わりが深いと書きました。この土台は年齢とともに目減りしていくもので、減っていくぶんを日々の飲食から補う役割を受け持つのが胃腸だと東洋医学では考えます。つまり、土台を補い続けられるかどうかは胃腸の働きしだいということになります。
食事が不規則なまま胃腸が弱っていると、体力の底そのものが下がり、同じ季節にまた同じ場所から不調が出やすくなると当院では見ています。耳の症状であっても、耳だけを見ていては同じことが繰り返されます。
当院が運動器の症状でも体質を一緒に診ているのは、この考え方によるものです。詳しくは繰り返す痛みと胃腸の関係をご覧ください。
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ご相談ください
音がつらい状態は、まわりから見えにくく、説明しても伝わりにくい症状です。当院は完全個室で、1回90分・1日3名までの予約制のため、静かな環境でお話をうかがえます。
まずは耳鼻科で診てもらったうえで、体の側から手を入れたいという方は、お気軽にご相談ください。




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